記憶の話

 暗記が苦手、と言う生徒がいたときにこんな話しをしています。

 人間の記憶には三種類ある。一つは耳から入って、いったん脳に格納されるが、すぐにその痕跡が失われてしまう記憶。つまり右の耳から入って左の耳に抜けてしまう状態。念仏のように教科書を読むだけの授業や、集中力の全くない生徒がこれに該当します。

 もう一つが、数日間、脳にその内容が蓄積される状態です。これは話のうまい教員や、教育技術に長けた教員が身振り手振りを交えて、さらに黒板だけでなく実演したり、実験したり、手を代え品を変え生徒に覚えさせようとした時の状態です。

 もちろん生徒側も教員の話しに耳を傾け、黒板の文字を理解しようとしながらノートに書き写すという作業が必要になります。

 両者の違いは大脳生理学的にどんな違いがあるのか知りたいところですが、今のところ真剣に調べた事はありません。それはそれとして、そうやって授業中に必死に覚えた内容も数日間でほぼ忘れてしまいます。

 エピングハウスの忘却曲線という研究が有名です。それによると記憶はだいたい数日から1週間で、4分の3を忘れてしまうようです。

 さてそれではもう一つの記憶とは何かというと、ほぼ一生涯覚えている記憶です。代表的なのが自分の名前や住所、電話番号なんかです。これはなぜかちゃんと覚えている。覚えていなければ、これは病気だと言われると思います。

 そうすると学校で教える数日間覚えている記憶と、名前のような一生涯覚えている記憶の違いはいったいどこにあるのでしょうか。

 これも大脳の構造やはたらきの研究を知らないと答えられない問題ですが、我々大人でも意味もなく覚えている学校で習った知識があります。

 とすると結局学校で行う学習とは、本来なら一過性で終わってしまう記憶を、なんとか数日間記憶させ、さらに数日間覚えている記憶をより長く定着させる作業である、といえそうです。

 例えば試験前に一夜漬けをすると翌日の試験はなんとかうまくいくことがありますが、その後は再び暗記のやり直しとなることを受験生はよく知っています。これも典型的な忘却曲線の例です。

 それでは、記憶をより長期間維持するためにはどうしたらよいかということですが、この結論は昔から言われていたこととまったく同じです。すなわち忘れないうちに(数日間のうちに)反復学習するということで、要は復習をしなさい、ということになります。

 また復習する際、暗記をするためには五感をフル活用した方が効率がよいようです。例えば英単語を覚えるとき、英単語を見る、声に出して読む、ノートに書く、というようにいくつかの作業をひとまとめに行うと覚えやすいと言われています。

 ということはBGMに音楽を聴いたり、ちょっとテレビを見ながらという暗記法はひじょうに非効率的な方法だと言うことです。

)


小話のページ戻る


表紙に戻る