定時制の話し(1)

勤務の経緯

 大学の卒業まで約1年を残した、今から35年ほど前の2月にに突然父が他界。それまでのんきに大学生活を送っていた私は、いきなり長男として家族の生計を考えなくてはいけない立場になってしまいました。

 もともと教員志望でしたが、8月の試験を間近にして、さすがに試験勉強に真面目に取り組みました。そのかいあってか、または折しも生徒急増期に重なった、というラッキーが幸いしたのか、採用試験に無事合格。

 2月の終わり頃、ある定時制高校の校長さんから自宅に電話。定時制高校に勤めてもらえないか、という依頼でした。

 私は正直驚かされました。当然昼間の普通の高校に勤めるつもりでいたからです。しかし、その話しを断れば、その年は採用がないかもしれません。ちょっと不満を覚えながらも承諾しました。


定時制の1日

 定時制高校というものを知らない人のために、簡単な時間割を書いてみます。もちろんすべての定時制高校がこの時間帯で動いているわけではないはずです。

13:00 職員の正規の出勤時間、ただし普通の教員はこの時間に出勤しても生徒がいないので、実際の出勤はもう少し遅い。(ただし現在はこの時間に出勤が普通)
17:00 生徒が登校し始める。ただしこの時間に来ることが出来る生徒は、事業主が定時制に理解があって早めに送り出してくれる生徒、または早朝から働いている生徒です。早く登校できた生徒は、食堂で給食を摂ることができます。
17:30 1時間目の授業開始
18:10 1時間目終了。大多数の生徒が給食を食べます
18:40 2時間目の授業開始
20:40 4時間目の授業終了。5分ほどSHRを行い、日によってはクラブ活動。私は卓球部の顧問でした。
21:30 クラブ活動終了。下校

生徒達の職業

 定時制高校で職業を持つということは、中卒の資格で働いている、ということです。男子の場合は製造や建設の現場で働くことが多く、女子の場合は準看護婦が多いようです。

 また信じられないかもしれませんが、地方からいわゆる出稼ぎのような形で町工場で働く生徒もいました。労働条件はどこも悪く、きつい仕事が多い事がよく分かりました。

 建設(大工さん)や塗装といった職業では、早朝から働きに出ることも多いらしく、学校に来る頃には疲れ果てています。看護婦さんにいたっては、夜勤の関係で24時間一睡もしないで登校してくる、ということもあったようです。そんな生徒が授業中に居眠りをしたとしても怒れるわけがありません。


生徒達の年齢

 中学を卒業してすぐになんらかの事情で働かなければならなかった生徒がいます。当然年齢は15歳です。

 中卒で何年か働いてみたものの、学歴による差別を感じたり、学校で勉強して教養を身につけることの必要性を感じて通っている生徒もいます。

 16歳から上は50歳ぐらいまで。高校を卒業することによって、高卒の資格を取得し、それであらたな資格を取得しようと考えて入学してきた者もいます。生活が荒れて、暴走族まがいのことを繰り返した後、勉強の必要性を感じた者もいます。

 学校全体の人数は100人弱と少ないものの、その中には様々な人生経験が渦巻いていました。

 高校、大学、教員と、それほど大きな悩みも障害もなく暮らしてきた私には、想像も付かない生徒達の境遇でした。理科の知識こそ勝っていますが、人生経験においては足元にも及びません。

  
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