ガン発生のメカニズムと転移

 前ページで一般的な「ガン化」という語句についてまとめました。分かったことは

・ がん細胞は勝手に増え続ける
・ 増殖によって、他の正常な組織を押しのける、または機能不全に陥れる
・ 全身に転移する

 という三点に集約できそうです。ではこのような結果に至る以前に生体内でどのようなことが起こっているのか。これについて以下に簡単にまとめました。

 成人した人の細胞はおよそ60兆個の細胞で出来ているそうで、これらの細胞がそれぞれの機能に応じて一定の周期で細胞分裂を繰り返しています。

 細胞分裂というのは生物学の基本ですが、要するに自分と全く同じ細胞を二つ作り分裂すると言うことです。しかし一つのものから、まったく同じものを二つ作ると言うことはとてつもなく難しいことです。

 よく体細胞分裂はコピーに例えられますが、これは原稿があってそれをコピーするだけです。つまりお札を作るときに、原版を作っておいて、そこから同じものを作るということですが、細胞分裂はそれとは若干異なります。

 つまり原版があったら、その原版と同じものを二つ作るということです。そのために細胞の核の中に含まれている染色体が活躍します。

 これは体細胞分裂という言葉で調べればすぐに分かりますが、要するに1本の染色体が、まったく同じ遺伝子を持った2本の染色体に分かれ、それが細胞の両側に引っ張られ、間に仕切りが出来て新しい細胞が二つ出来るというものです。(染色体は多数の遺伝子をもったヒモのようなものです)

 ただ1本の染色体の中に含まれる遺伝に関する情報量はとてつもなく大きいため(その染色体の中に人間一人の遺伝子のほとんどが含まれているわけです)、分裂過程(同じものを2本作る過程)で時々ミスが起きることがあります。(ミスは1日に数千個の細胞で起きているという説明もネットでは見られます)

 通常は、そういったミスのある細胞は直ちに自滅(アポトーシス)してしまうか(これもすごいメカニズムだと思いますが)、多少生きながらえたとしても、いわゆるT細胞やNK細胞と言った免疫細胞により駆逐されてしまいます。

 一方、元々60兆個の細胞が様々な周期で細胞分裂を行っていますから、たまにそういったアポトーシスや免疫細胞から見逃されるがん細胞も存在します。

 そういった細胞でも成長過程で免疫細胞に見つかれば駆逐されるのだと思いますが、その期間すら生き抜き、ある程度の大きさになってしまうと、免疫細胞の攻撃力よりも分裂回数の方が上回ってしまい、徐々にガン細胞数が増えていきます。

 そういったがん細胞が一箇所に固まっていれば、それはやがて大きな塊になり、「腫瘍」と言う言葉で表されるようになります。

 またそういった細胞の一部がくずれ、その断片が血管やリンパ管等を通り抜け、他の組織に到達し、そこで再び増殖を始めたものが「転移」と呼ばれる現象です。


表紙に戻る 悪性リンパ腫の基礎知識 ガンの分類