細胞分裂の過程と周期

 治療の種類が分かったところで、それぞれの治療法を説明すればいいわけですが、それぞれの治療法がどの段階のリンパ細胞に働きかけるのか、また働きかけることによってどのような変化が生まれるか、と言うことを知るために、最初にB細胞を例にとって、その成熟過程を再度確認し、さらに細胞分裂の特徴をまとめておきたいと思います。

 何回も書いていますが、出発点は骨髄中の造血幹細胞(すべての血球の元になっている細胞)です。これが成長分裂する過程で、元の造血幹細胞とリンパ芽球に分かれます。

 (これは通常の細胞分裂とは異なります。通常は同じものが二つ出来るわけですが、造血幹細胞の場合は、自分は変化せずリンパ芽球を次から次へと作り出す分裂です)

 従って、再び造血幹細胞が出来、これがまた造血幹細胞とリンパ芽球に分かれる、と言うことを繰り返し、それによってリンパ芽球が増えていきます。

 こうやって作られたリンパ芽球はリンパ節に移動し、ここで様々な免疫機能を獲得するような教育を受け、成熟したリンパ芽球がリンパ球(B細胞)となって、血液中やリンパ液中に出ていきます。

 この間にこれらのリンパ球は通常の細胞分裂(一つの細胞から、まったく同じ二つの細胞が生まれる)を行っています。この分裂過程は大きく4つの時期に分けることが出来ます。

@ DNA合成準備期:G1期

  細胞分裂を行うために、DNA合成のための素材を集める時期
  すべての素材が揃い、合成への準備が出来たかどうかのチェックも行われています 

A DNA合成期:S期   
  
  集めた素材を使ってDNAの複製を行う時期

B 細胞分裂準備期:G2期

  実際に分裂を行う前の準備期間
  DNAの複製が完璧に行われたかがチェックされます
  
C 分裂期:M期

  実際に細胞分裂が行われる時期
  分裂途中で、きちんと分裂が進行しているかどうかのチェックが行われます

D 分裂後

  新しい細胞が二つ出来、また@に戻ります

 面白いのは、それぞれの過程に要する時間で、通常の細胞分裂では、一番短いのはCの分裂期で1時間以内に終わってしまうようです。

 次がBの細胞分裂準備期で数時間、これらに比べると@やAのDNAの素材を集め、準備にかかる時間はそれぞれその10倍ぐらいの時間が必要みたいです。

 従って分裂過程にある造血幹細胞を顕微鏡で観察すれば、その大部分は@やAの過程にあるわけで、見た目としては染色体もほとんど見えない、面白くも何ともない細胞が見えるわけです。

 そのごく普通の細胞の0.5割以下がちょうど分裂過程にあるわけで、要するに生物の教科書に掲載されている細胞分裂の写真や図(大多数の細胞は通常の細胞で、その中でちらほら染色体が見える細胞がある)の状態になります。

 またこの後抗ガン剤の説明もしていきますが、抗ガン剤が最も効果的に細胞分裂に影響を及ぼすのは分裂期なので、長い準備期間の中のある一瞬しか効かないと言うことになります。

 つまりある時刻に全体の5%が分裂過程に入っているとすると、その時投与された抗ガン剤は、その5%にしか影響を及ぼすことが出来ず、残りの95%が分裂期に入ったときは抗ガン剤の効力は薄れている、と言う可能性があります。

 と言うことは抗ガン剤を何回も使わないと、残りの悪性リンパ腫細胞の分裂期にうまく薬剤が行き渡らないと言うことになります。


表紙に戻る 治療 放射線治療の原理