新陳代謝の早さと抗ガン剤

 補足をします。抗ガン剤は、細胞分裂を激しく行っている組織に強く働きかけることが出来る、という論理で話を展開してきました。

 このときガン細胞は、細胞分裂を激しく行っているため効力があると結論づけて、多剤併用の有用性まで説明しましたが、ここでふと細胞分裂を激しく行っているというのはどうゆうことかと疑問を持つようになりました。

 言葉で細胞分裂が活発に行われていると書くと、その分裂速度そのものがひじょうに早いため、どんどん増殖するというイメージがありますが、個々の細胞が自分の周りにある毛細血管や組織液から吸収することが出来る栄養素の量は、通常の細胞とそれほど変わらないはずです。

 また、取り入れた栄養素を活用してDNAを合成するわけですが、ガン細胞だからそれが凄く早い、と言うことにもならないような気がします。(化学では反応速度と言いますが、ガン細胞はDNA合成の反応速度が通常の細胞より早いと書いてあるような資料を見つけることは出来ませんでした)

 つまり取り入れる栄養素の量も、その栄養素を使ってDNAを合成する早さも同じなら、ガン細胞は活発に細胞分裂をしている、という表現とはちょっとイメージが違うかもしれないなと思い、このページを書いています。

 ではいったい何が違うのかというと、ガン細胞は際限なく分裂を続けるということであり、通常の細胞はある一定の時期が来たら自動的に自分から機能を停止し、自ら分解していく機能(アポトーシス)を持っていると言うことです。(原理はテロメアという染色体の一部分に関係するようですが、ここではこれ以上深く追究しません)

 その結果どのようなことが起きるかというと、通常の細胞、例えばリンパ球を含む白血球は10〜20日で寿命を終えると一般的に言われていますから、それを補うために10〜20日で造血幹細胞から白血球が新たに作り出され補充されます。全体としてみれば一定量の血球が全身に存在することになります。

 一方悪性リンパ腫のリンパ球や白血病の白血球は、この10〜20日という寿命がなくなり、ズ〜ット生き続けたり、その生存期間中に再び二個に細胞分裂をする可能性があります。

 出来上がった細胞は、また寿命がないので分裂をする可能性があります。従って通常の血球は一定量なのに、異常な血球だけが増えていくことになります。この状態を細胞分裂が激しく行われている状態、と言うのかなと思いました。

 ということは通常の体細胞であっても、その新陳代謝の早さが早いものは激しく細胞分裂を行っている組織になるわけです。

 調べてみると、皮膚が28日(月齢とほぼ一致するのが面白いです)、心臓22日、胃5日、腸2日、筋肉60日、肝臓60日、骨90日、血管壁90日というような数字が見つかりました。(個々のデータにより若干数値の差はあります)

 これに対してリンパ球を含む白血球の寿命は10〜20日と書かれていますから、抗ガン剤を投与されると、これより少ない日数で頻繁に細胞が入れ替わっている胃や腸に副作用が強く出ることが納得できます。(ガン細胞より影響を受けやすいとも言えそうです)

 つまり抗ガン剤により、胃腸の内壁の、今まさに細胞分裂をしようとしていた細胞が多数影響を受けるので、下痢や便秘、嘔吐、吐き気といった症状が出るのかなと考えました。


表紙に戻る 治療 CHOP療法