化学療法で影響を受ける細胞数

 今、リンパ腫細胞が10000個あるとします。これに1クールの化学療法をおこなうと40%の細胞分裂が阻害されるとします。

 すると4000個の細胞が破壊されますから、残っているのは6000個の細胞です。その状態で第2クールの化学療法を行うとき、影響を受けるのは何個の細胞で、残るのは何個か、というのは大きな問題です。

 普通に考えれば再び4000個の細胞が影響を受け、残っているのは2000個ですから、さらにもう1回治療を繰り返せば、この理屈では寛解状態になります。

 しかし実際には6000個の細胞の中で、化学療法の影響を受け破壊されるのは4000個ではなく、40%になると思われます。しかも場合によっては40%よりも少ない値になる可能性もあります。(リンパ腫細胞が、投与された薬剤に耐性を持つ可能性があるためです)

 ただここでは話を単純化するため6000個の内40%が破壊されるとします。すると2400個が消え、残っているのは3600個です。

 第3クールでは3600個の内、やはり40%が破壊されるとすると、残っているのは60%の2160個です。以下同様に60%ずつ残りますから、第4クールで1296個、第5クールで778個、第6クールで467個となり、結論から言えば最後の1個になるまで、繰り返さないと理論的には寛解になりません。

 それでも6回繰り返せば、当初10000個あったリンパ腫細胞が467個にまで減ったわけですから大きな効果があったと言えます。

 しかし逆に言うと、ほんの小さなリンパ腫細胞の塊であっても、そこには何億という細胞が含まれているはずですから、実際の化学療法では必ずほんの少しリンパ腫細胞が残ってしまうように思えます。

 その残存細胞が息を吹き返して再び増殖すれば再発と言うことになり、その前に自身の免疫やこの後に説明する「リツキサン」等の薬剤で根絶が出来れば、本当の寛解、と言うことになります。

 であるならば、出来るだけ残存細胞を減らすためには、多くのクールを行った方が良いことになりますが、最初に書いたように、同じ薬剤を繰り返すとリンパ腫細胞もそれに慣れてきて当初と同じような効果が現れないということと、繰り返せば繰り返すほど副作用の影響が大きくなり、体力が持ちません。

 我が家の連れは、最初の治療でいったんは無事に寛解状態になったと告げられましたが、半年ちょっと経って再発。主治医は「質の悪いリンパ腫細胞だ」と表現していましたが、今考えると、より骨髄に近い部分でリンパ腫が発生したので通常の化学療法だけでは効果がなかったのではと疑っています。

 それはそれとして、再発後も寛解を目指したわけですが、質が悪い細胞を一掃するためには、さらに強い化学療法を行わざるを得ず、結局骨髄そのものが疲弊してしまい白血病となり、更に正常な白血球が不足したことにより、何のことはない細菌で肺炎を発症しあっけなく他界してしまいました。

 そう言った経験を踏まえて思うことですが、この化学療法を繰り返す(クール)という行為(回数)は、医師側も患者側も細心の注意を払う必要があるなと感じています。

 医師側は最初に何クールやりますと決めると、必ずその回数をこなさなければならない、という言い方をする人が多いように思います。それが標準治療だからと言うことなのかもしれませんが、患者側には一人一人その効果の出方が違いますから、体調によっては途中で中止することがあっても良いのではと思っています。 


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