強い化学療法と自浄作用


 前回の引き算の表をもう一度考え、例えば最初の抗ガン剤治療が50%のリンパ腫細胞を殲滅するとして、以下クールを繰り返す毎に、抗ガン剤の効力が少しずつ失われた場合どうなるのか、と言うことも考えておきたいと思います。

クール数
抗ガン剤の効果% 50 45 40 35 30 25
残存細胞% 50 27.5 16.5 10.73 7.51 5.63
抗ガン剤の効果% 60 55 50 45 40 35
残存細胞% 40 18 9 4.95 2.97 1.93
抗ガン剤の効果% 70 65 60 55 50 45
残存細胞% 30 10.5 4.2 1.89 0.95 0.52
抗ガン剤の効果% 80 75 70 65 60 55
残存細胞% 20 5 1.5 0.53 0.21 0.095


 いろいろな抗ガン剤治療の資料をネットで見ていますが、こういった表はありませんので、もしかしたら私がまったく考え違いをしているのかもしれませんが、例えそうであっても抗ガン剤治療の効果を考える上での一つの資料になればいいなと考え、あえて示しています。

 一番上の段は文字通りクール数であり、6回繰り返した場合という意味です。2段目は、仮に1回目の抗ガン剤治療で50%のリンパ腫細胞が駆逐された場合で、以下繰り返す毎にその治療効果が5%ずつ減った事を意味しています。

 三段目はその結果リンパ腫細胞がどの程度残っているかを表した数値で、第1クールで50%が殲滅されたので、残りは50%になっています。

 しかし第2クールでは、抗ガン剤の効果が5%落ちて45%になってしまったため、残存細胞の内55%が生き残っています。従って50×0.55=27.5という計算をしています。以下同様の計算を繰り返すと、この場合は第6クールでまだ5.63%のリンパ腫細胞が生き残っていることになります。

 次は第1クールで60%の殲滅効果があったとして、以下順に5%ずつ効力が失われた場合の残存細胞率ですが、6回繰り返しても1.93%リンパ腫細胞が残っていることになります。

 この計算では、第1クールで80%という高い殲滅率があっても、第6クールではまだ0.095%残存細胞が存在することになります。

 実際のガン細胞の数は万というオーダーではなく、億や兆といった数だと思いますので、もっとも治療効果が高いと仮定した最後の80%の例でも、最初に100億個のリンパ腫細胞があれば、残っているのは950万個という大きな数字になります。

 このように抗ガン剤の理想的な効き目を仮定したとしても、1回毎に抗ガン作用が低くなるとすると、残存細胞は必ず存在し、単純な引き算では考えられず、残った細胞は途方もない数になります。

 しかしだから治療の望みはない、と言っているわけではありません。要するに単純な引き算でない限り、悪性リンパ腫細胞を最後の0個まで駆逐するのは、抗ガン剤では不可能に思える一方、にもかかわらず寛解し再発しない方がいるということは、最後の細胞を駆逐する何らかの作用が生体のどこかで働いているに違いない、と言うことを言いたいわけです。

 それはいったい何かというと、一般的には「免疫だ」と言われるのだと思いますが、抗ガン剤治療で免疫系もダメージを受けているはずなので、それだけではなさそうだ、というようにも思えてしまいます。

 もしかしたら遺伝子そのものの働きが回復し、不都合な細胞は自然死するスイッチが正常に戻るとか、まったくこれまで検出されていないような化学物質が体のどこかで作られ(例えばこの後説明するようなリツキサンのような物質を考えています)、それが作用するというようなことです。

 ただ免疫系にしろ、遺伝子の働きにしろ、新しい化学物質にしろ、それが働くような環境を抗ガン剤が奪ってしまうと、一旦は見かけ上寛解に至っても、我が家の連れのように再発してしまうのかなと言う気もします。

 つまり結局は最初に戻るのですが、抗ガン効果が高い薬剤は、確かに一時的に効果を発揮しリンパ腫細胞を殲滅しますが、わずかに残存細胞が残る可能性があるため、それをさらにやっつける生体内の働きがないと再発の可能性があると言うことです。

 ところが、強い抗ガン剤治療の場合は(化学療法はどの治療も強い治療だと言われていますが、その中で特に強い治療という意味です)、その生体内の自浄作用まで壊してしまうのではないか、と言うのが我が家の連れが経験した、強い化学療法の功罪ではないかと思えてしまうと言うことです。


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