ピルビン酸は
細胞内に蓄積されないのか?

 ガン細胞ブドウ糖を分解する過程の解糖系だけを使ってエネルギーを得ています。この時、その反応によって出来上がるのはピルビン酸という物質です。

 これらを化学式で書くとブドウ糖はC6H12O6となり、ピルビン酸はC3H4O3であらわされるので、この時の反応式は

C6H12O6 → 2C3H4O3 + 4「H」  となります。

 つまりブドウ糖が1個(化学では1分子とか1(mol)という言い方をしますが)あると、そこから2個のピルビン酸が出来て、4個の、通常とはちょっと違った高いエネルギーを持った水素が放出されると言うことです。

 この水素はその後、電子伝達系に渡され、そこで反応します。そこで疑問ですが、ガン細胞は解糖系をよく使うことが分かりましたので、細胞中にピルビン酸が一杯出来ることになります。

 ピルビン酸が一杯出来ればすぐにミトコンドリア中に供給され、クエン酸回路がはたらきそうなものですが、実際にはその動きが抑制されているというのが、ここまでの結論です。

 では一杯出来たピルビン酸は細胞中でどうなっているのか?そのままの形で蓄積され存在しているのか。それとも何か別のルートでピルビン酸は違う物質に変化しているのか?

 前ページでピルビン酸を増やせば、ガン細胞に影響があるかもという書き方をしましたが、実際にはそのような療法は採用されていません。

 その理由は、要するにガン細胞がこのピルビン酸の反応がクエン酸回路に向かわないようにしているからです。従って、そうなると外部からピルビン酸を入れてもガン細胞には影響しないことになります。

 ではどうしてそのようなことが起こるのか?たまったピルビン酸はどうなるのか?

 これを調べてみると、ピルビン酸が反応するのはクエン酸回路だけではないことが分かってきました。それは何かというと、ピルビン酸は細胞基質内で乳酸に変化していると言うことです。

 乳酸とはいったいどんな物質なのか。乳酸菌という言葉から連想されるように体には良さそうな物質にも思えます。化学式はC3H6O3とあらわされ、ピルビン酸とひじょうによく似ています。水素原子が2つ多いだけです。

 つまり上記のブドウ糖からの化学反応式は、いったんピルビン酸になってから

C6H12O6 → 2C3H4O3 + 4「H」 → 2C3H6O3 

となり、要するに結果的にはブドウ糖が半分になったということです。(構造式状は半分にはなっていません。化学式の解釈として半分だということです)しかもガン細胞にとって都合のよいことに、これらの反応も酸素は必要としません

 さらに蓄積された乳酸は肝臓に戻され、再びブドウ糖になるという便利な代物ですから、ガン細胞にとってはこちらの反応を多用した方が、エネルギーを産み出すのに便利なわけです。


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