乳酸脱水素酵素が必要な場合もある

 いよいよ難しくなってきました。専門用語がズラズラ出てくるので、それを何とか理解して、さらに分かりやすく説明し直すという事をやっています。

 これは自分自身がこのページを作りながら、今まさに私自身が勉強していることをまとめなおしているためで、話がくどくなったり、前後したりしている部分もあるかもしれません。それでも基本的な流れはなんとか論理的に押さえていこうと努力はしています。

 というわけで「ピルビン酸脱水素酵素」と「乳酸脱水素酵素」のはたらきぐらいの違いによって、ピルビン酸がクエン酸回路に進むのか(正常細胞)、単に乳酸という物質に置き換わり肝臓に送られるのかが決まるということが分かってきました。

 ここでちょっと余談ですが、だったら乳酸脱水素酵素なんか必要ないじゃないか、という疑問も生じます。しかし以下の例に示すように、何でもかんでもともかく乳酸脱水素酵素が働くのは良くない、というわけではなさそうです。

 例えば激しい運動をすると呼吸数や心拍数が増加して酸素をたくさん取りこもうとします。この時体内でどのような現象が起きているかというと、先ず筋肉を使うために筋肉中のブドウ糖がどんどん消費されます。

 その結果ピルビン酸が大量に出来、それがクエン酸回路、電子伝達系に伝わり、この流れがフル回転するわけです。そのため電子伝達系で大量の酸素が必要になり、呼吸数や心拍数を増やして血液で必死に酸素をミトコンドリアに送るわけです。

 ところがそういった酸素の供給が追いつかないような激しい運動を行うとどうなるのか。そうすると呼吸によって取りこんだ酸素だけでは足りなくなってきます。つまりミトコンドリアに充分な酸素が供給されないという状態です。

 そうなると、いくらブドウ糖を分解してピルビン酸を作っても、電子伝達系が酸素不足になりますので、ミトコンドリアのはたらきに限界が生じます。

 まさにその時に乳酸脱水素酵素が働きます。つまり過剰になったピルビン酸をこの酵素がどんどん分解して乳酸に変えていき、それが再び血液で肝臓に運ばれ、ブドウ糖に変換されます。

 その意味では、この乳酸脱水素酵素は体内でひじょうに重要なはたらきをしているという事になります。

 なお一時期この乳酸が筋肉に蓄積されることが疲労感の原因であると言われていたことがあります。

 実際運動をすれば、多かれ少なかれこの乳酸が生じて、激しい運動をすれば乳酸の量が増えると思いますが、その量と我々人間が普段感じる「疲労感」というものが、必ずしも一致するわけではない、というのが最近の生物学の流れのようです。

 では疲労感とは何か、というのがまた気になるところですが、それはこのサイトの主旨とははずれますので、あまり深入りしないことにします。このページの結論は、ガン細胞が利用する酵素である「乳酸脱水素酵素」は、通常の筋肉の働きの中では必要な酵素であるということです。


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