自律神経と免疫力

 私が持っている高校の生物の資料には自律神経のはたらき(拮抗作用)について、以下のようにまとめられています。(主だったところを抜粋しました)

組織・器官 交感神経のはたらき 副交感神経のはたらき
全般 活発に活動 安静時、疲労回復時
伝達物質 ノルアドレナリン アセチルコリン
エネルギー 消費 蓄積・保持
瞳孔 拡張 収縮
呼吸 速く浅く 遅く深く
気管・気管支 拡張 収縮
心拍 促進 抑制
血管 収縮 通常状態
血圧 上昇 低下
胃・小腸 抑制 促進


 ざっと見ていただければ分かるように、両者の大きな違いは「全般」という項目と「伝達物質」という項目にあります。

 私が生物の授業でこの自律神経の働きを説明するときは、極端な例として、交感神経系は喧嘩をするときにはたらき、副交感神経は寝ているとき働くという言い方をしています。

 つまり喧嘩をするときは、体がその臨戦態勢に備えて、相手がよく見えるように瞳孔を拡大させ、心肺機能を高め酸素を体中に供給し、傷ついても容易に血液が流れないように血管を収縮させ、それでいて全身に血液が行き渡るように血圧を上げるというわけです。

 この交感神経は、何も喧嘩の時だけ働くわけではなく、日常生活の中で緊張状態を強いられているときも同じような働きが生じます。

 この日常生活の中の緊張を我々はストレスと呼んでいるわけですから、一過性のものならともかく、それが持続的に続くと常に交感神経系が緊張を続けることになり、体が休まらないと言うことになります。

 一方副交感神経は、一番極端な状態が深い睡眠状態だと解釈しています。この時は外からの刺激をすべてシャットダウンし、自分の体の中だけで代謝作用を行い、組織の修復や記憶の再構成を行うということです。

 従って一般的には睡眠が大事だと言うことになるわけですが、では四六時中ベッドの上で寝ていれば、免疫力は最高値に達するのかと言うこと、そうでもなさそうです。

 この点について考えるきっかけとなるのは、伝達物質の免疫系に及ぼす作用の違いです。これについてのメカニズムは私もよく分からないのですが、結論から言うとノルアドレナリンは白血球の中の顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)を増やす働きがあり、アセチルコリンはリンパ球を増やす働きがあるとの事です。

 どうしてこんな作用があるかと言えば、要するに初めに戻りますが、体が活発に活動しているときは外部から侵入する敵も増えるので白血球を増やしておく必要があり、休息したり、寝ているときはリンパ球が体内の異常細胞を駆逐するということのようです。

 一般的にはこれらの顆粒球とリンパ球がバランス良く血液中に存在することによって免疫力が高まるわけで、どちらかに片寄っている状態は、免疫力が低くなった状態と考えられます。

 つまり寝ることによって免疫力が高まるのではなく、起きていることと寝ることを規則正しく繰り返すことによって、血液中の顆粒球とリンパ球の存在比率(白血球分画)がバランスの良い状態となり、それによって免疫力が高まると言うことです。

 ただ一般的に、なんらかの病気になる人は、ストレス等の影響でどちらかと言えば睡眠不足になることの方が多いので、免疫力を高めるにはその睡眠不足を補うために寝た方がよい、という結論になるのだと思います。

 だとすれば、病気療養中の患者さんの場合は、基本的に仕事によるストレスからは解放されていると思いますので(病気への不安によるストレスはあると思いますが)、できるだけ規則正しい生活をして、夜更かし等はしない、ということが免疫力を高めると言うことになります。

 まとめると、睡眠と免疫力という関わりでは、寝る時間が多ければよいと言うのではなく、規則正しい生活と安定した睡眠を確保することによって、血液中の顆粒球やリンパ球の成分比を、その時の体の状態にもっとも適した配分値にすることが、免疫力を高めると言うことになるのだということです。


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