主治医からの話

 病院に着いて、主治医に詳しい話を聞いた。

 「カルシウム値は徐々に下がっていますが、クレアチ二ン(腎機能をあらわす数値)が上昇していますので、腎機能はかなり衰えています。」

 「この数値は通常1以内ですが、現在4以上あります。今後さらに腎機能が衰え、おしっこが出なくなってしまったら透析の必要があります」

と言われ、一層気持ちが落ち込んだ。

 続いて、「カルシウム値が高い理由はいまだに不明です。この症状で考えられるのは副甲状腺の異常ですが、いまのところ正常に見えます」とのことだ。

 副甲状腺については、入院後私もインターネットを使ってカルシウム異常を検索し、少しだけ予習していたので医師の話がよく分かった。

 さらに、「左乳房の上にしこりがあります。これを現在生検で確かめている段階で、結果は数日後に分かります」との事だった。

 「しこり」という言葉を聞いて、ようやく主治医の「腫瘍」という言葉に納得がいった。「これ以外のカルシウム値上昇の理由としては、骨髄の異常も原因の一つとして考えられますので、骨髄穿刺を行いました」と説明を受ける。

 それにしてもひたすら検査検査だ。必要だとはいえ、検査によって体調をくずす患者がいるという話を実感した。

 とはいうものの、この段階ではまだ病名も特定されず、また突然飛び交い始めた医療関係の専門用語に振り回され、なんとか主治医の説明についていくのが精一杯だった。

 言われたことをメモし、自宅に戻ってからインターネットや常備してある家庭の医学書を使い、いろいろな用語を勉強し直す作業が続いた。

 同時に今後の参考のためにも、出来る限り日々の記録を残しておくことにした。Yにもその旨を伝え、できるだけメモを取ってもらうことにした。(そのメモが、この体験記の元になっています)

 ちなみに、後日Yに「しこり」に気づいていなかったのかと聞いたところ、「違和感はあったがしこりまでは分からなかった。ただ皮膚の一部が赤みを帯びていることは気がついていた」とのことだった。
 
 この時期にすぐ対処できていれば、という後悔の念もないわけではないが、普段からひじょうに健康的な生活を送っていたため、まさかその赤みが病気に直結しているなどとは思わなかったのだろう。もともと楽天的なYであるから、なおさらである。

 夜、妹さん宅から電話があり、Yのお母さんが、「現在の病室では周囲がうるさいので個室にしてもらうつもりなので了解して欲しい」、と伝えてきた。

 自分本来の仕事と、病気の内容の理解に手一杯だったためそこまで気が付かなかったが、言われてみれば、あの病状では個室がいいだろうと思える。早速私からも要望を伝えようと考えた。 


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