悪性リンパ腫の可能性に言及

  翌日は13日(水)で、入院も5日目を迎えた。

 7時半頃採血。採血については、入院している以上行うのが当たり前だが、ほぼ1日おきにある。

 そのため徐々に採血場所が硬化し、少しずつ場所を変えていかなくてはならない。また採血のやり方が下手だと、内出血をして青黒くなる。

 回数が多いだけに、看護士さんの腕前で、その後の腕の状態に大きな差が出る。血管が細い人にとっては苦痛以外の何物でもないだろう。

 9時半過ぎ、頭のCT。脳腫瘍の疑いを晴らすためだ。咳が頻繁に出ている。病室に行くと、咳の症状が強いため、鼻から酸素を吸入していた。

 しかし傍目にもあまり効果は見られず、むしろ吸入器をあてがっているときの方が息苦しそうに見えた。とはいうものの勝手に外すわけにも行かず、手をこまねいて見ているしかないのが歯がゆい。

 ちなみにこの咳はかなり長期間続く。当初は風邪の咳だと思っていたが、実はこれも病気の症状の一つだった。それが分かるのは、次の大学病院に転院してからだ。

 若干下痢気味らしくラックB(整腸剤)が処方され、咳のためにホクナリンテープ(気管支拡張剤)が使用された。点滴はソルデム(基礎輸液)。入院中、一番お世話になった薬剤である。

 帰りがけに主治医から呼び止められ、現状について分かっている範囲で説明を受けたが、その内容は予想をはるかに越える厳しいものだった。

  「カルシウム値は当初16.8でしたが、治療の効果が出て徐々に下がり、現在は10.9となりました。(正常値は10.5以下)クレアチニンは3.9で、こちらはあまり下がっていません。(正常値0.79以下)まだ腎臓がかなり弱っていますが、悪化するのはなんとか食い止めています」

 ここまでは良かったのだが、ここからが厳しかった。
 
 「月曜におこなった生検の結果から、胸の悪性リンパ腫または他の部位のガン、場合によっては乳がんが疑われます」とはっきり言われたのだ。

 このとき初めて悪性リンパ腫という名前が医師の口から出た。ガンについてはそれなりの一般常識を持っているが、悪性リンパ腫という病名にはさっぱり心当たりがなかった。

 ただ、悪性という語句が気になり、さらに腫瘍の腫という字が落ち着かない気分にさせた。なにか想像を絶する悪い病気になったように思えた。

 うわべは冷静に対応したが、不安が大きく、気分が悪くなり、胃のあたりがムカムカしてきた。さらに追い討ちをかけるように、「骨髄細胞の検査でも、組織内に異常な細胞が見られます」との事で、転移の可能性まで指摘されてしまった。

 治療については、(ガンならば)

 「摘出か化学療法のどちらかで、いずれも脱毛や嘔吐の副作用があります。またこの治療を行うためには、もう少し設備の整った病院に転院する必要があります。」

 「手術か化学療法かの選択は本人と家族の意志に任されています。ただ現時点で100%そうであると断言は出来ません。現在生検と骨髄検査の詳しい結果を待っています」

 と丁寧な説明を受けたが、目の前に「ガン」=「死」という等式がちらつき初め、最後のほうは言われたことを機械的にメモしているだけで、泣きたい思いを必死にこらえていた。


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