本人への告知

 午後4時になった。病室でYと話をしていると、予定通り主治医が入室。いきなり告知を始めようとしたので、ちょっと待ってもらい廊下で打ち合わせ。

 私は「悪性リンパ腫」という病名のインパクトが強すぎるのではないかと恐れていた。そこで、いずれは分かることだが、今日の段階では悪性という言葉を極力使わないようにお願いした。

 主治医は、一瞬困った表情になり、「この病気に良性というものはありません。もし患者さんに逆に良性か悪性か尋ねられたらどう答えますか」と聞かれたので、「悪性の可能性がある」という表現にしてもらいたいと伝えた。

 姑息な手段だが、私自身が感じたショックがあまりに大きかったので、とりあえずワンクッションおいて、Yの反応を見たいということだ。

 告知は冷静かつ慎重に、誠意を持って行われた。以下の通りである。

 「一週間検査を行い病名が確定しました。血液の病気でリンパ腫という名前です」

 「この病気を治すためには設備の整った病院に転院する必要があります」(ここで具体的な病院名も告げられた)言葉は丁寧で相手の気持ちを思いやる口調だったので、比較的安心して聞いていられたが、やはりYの反応が気になる。

 しかしカルシウム異常で意識がまだ充分クリアでない影響もあり、また聞きなれない病名であったためか、それほど動揺も無く、素直に病名を受け入れたようだ。

 医師の退室後改めて本人と向き合うが、パニックになることも無く、淡々としていた。その姿を見て涙が出る思いだったが、表面上は明るく振舞うよう努力した。

 「病名が分かったけどショックは無いか」と思い切って聞いて見たところ、「大丈夫」と答えてくれたのでほっとした。

 実は告知が行われたとき、私はすでに、この病気は根治が難しく、場合によっては命に関わるということをインターネットで調べて知っていた。

 それだけに、本人の前向きで屈託の無い表情に、気持ちは複雑に揺れ動いていた。「なんとかして助かってくれ」その一念であった。


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