血液検査結果

 6月20日(水)、転院3日目。夕方病院へ。

 地図上では自宅と職場、病院が、一辺10km弱のほぼ正三角形の頂点に位置している。この三角形を、以後2年近くに渡り毎日のようにぐるぐる回ることになる。

 Yの顔つきはずいぶん良くなった。ただし大量のステロイド剤の影響で顔が丸くなり、腎臓の影響からか足に若干むくみが出ている。

 一方咳は相変わらず止まる気配を見せない。風邪だったらここまで長引くはずがない。悪性リンパ腫が原因であることは間違いなさそうだ。しかし熱は平熱に下がった。

 咳のためか声が少しかすれ気味だ。点滴はメロペン(感染症に対する抗生物質)他。このあと胸のX線撮影、肺のエコーの検査が予定されている。
 
 検査に出かけた合間に、主治医からさらに詳しい説明を聞いた。個室に案内され、コンピューター画像や血液検査結果の詳しい数値を見せてもらう。以下は主治医の話。

 「LDH(乳酸脱水素酵素)という指標が入院時518ありましたが現在327に下がりました」

 「正常値は211以下なのでまだ高いようですが、正常値には近づいています」

 「クレアチニンは現在2.3です。正常値は0.85以下で、こちらはなかなか下がりません。腎臓の機能が衰えています」

 「CRP(炎症反応)は20から9.6に下がりました。ただし正常値0.25以下なので、まだかなり大きな値です。体のあちこちで強い炎症が起きている証拠です」

 「また尿中にも異形細胞が見られます。白血球は14700。正常値は8000以下です。白血病に症状が似ています。ヘモグロビンは11以上のところが8.7しかありません」

 「どの数値も異常なので、治療を急がねばなりません。体力が回復してきた段階でCHOP療法を行いたいと考えています」

 「ただし現段階では回復が不充分なので、通常の半分の量で行います。それでも抗がん剤なので脱毛、胃腸症状(食欲不振、下痢、便秘)、口内炎等の副作用が予想されます。また必要に応じて輸血や透析を行います」

 ちなみにCHOPとは抗がん剤のエンドキサン(アルキル化薬)、アドリアシン(抗ガン性抗生物質)、オンコビン(植物アルカロイド)、プレドニン(ステロイド剤)の4種類の薬を次々と処方し、がん細胞の徹底的殲滅を目的とする悪性リンパ腫に対する標準治療だ。

 しかしそのことを知ったのはだいぶ後になる。当時は薬の名前を覚えるのに精一杯だった。

 詳しく丁寧な説明だったが、どれもこれも暗い話で、希望がまったくもてない。しかし主治医は気落ちする私に、「共にがんばって治しましょう」、と力強く励ましの言葉をかけてくれる。これがずいぶんなぐさめになった。当たり前のちょっとした言葉だが、妙に心にしみるのだ。

 検査から病室に戻ってきたYにもほぼ同じ内容が伝えられた。意外にもさほど落胆した様子は見られなかった。覚悟を決めていたのかもしれない。

 後から分かってきたことだが、この病気は治療期間が長いので、「病気を治すのだ」という気力を持ち続けることが難しい。

 特に抗がん剤の副作用があらわれる時期は、患者の気持ちが萎えるときなので、より一層家族の励ましが大事だ。「治療後にはこれをしよう」という目的を持つことが、苦しい治療の最中にも大きな励みになる。「がんばれがんばれ」ばっかりでは患者は疲れてしまう。

 我が家の場合は、私を含めて、Yも中学生の息子もハワイが大好きなので、「治ったらハワイ旅行」が合言葉になった。


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