主治医と話し合い

 しばらくすると妹さんが到着したので、今後の治療について、Yを交えて病室で主治医と話し合いを行った。以下はその内容。

 「今のところ症状は落ち着いているように見えますが、実際にはリンパ腫細胞が数ヶ所に存在しているため楽観できません。咳の原因は肺の下部にあるリンパ腫細胞の影響です。風邪ではありません」

 ようやく咳の原因がはっきりと判明した。

 妹さんもいろいろ調べているようで、セカンド・オピニオン、細胞免疫療法、民間療法等について質問していた。しかし主治医の説明は基本的にこれまでと同じで、症状が落ち着いてきたので、化学療法を月曜から初めたいというものだった。

 主治医の説明。

 「治療は薬剤を半分に減らしたCHOP療法です。この療法を行うと、場合によっては腎不全を起こす可能性があるので、透析の準備もしています。この治療の結果を見て、その次の治療方法を検討していく予定です」

 「当然ですが、治療に伴っていろいろな副作用や、内蔵の機能不全が起こることもあり得ます。しかし、今治療をしなければ、数週間で命に関わる危険な状態になります」とはっきり言われた。ここまで言われたらリスクがあっても治療を行うしかない。

 リツキサン(抗体医薬品という分類で、Bリンパ球表面の抗原に結合して抗腫瘍効果をあらわす薬)の使用について妹さんが質問した。

 「リツキサンという新しい薬もありますが、今回は使用しません。理由は体調が完全でないためです。今の段階で使用すると、腎不全を起こす可能性があるだけでなく、場合によっては心不全を引き起こすかもしれません」とのことだった。

 インターネットでリツキサンの情報を検索すると、あまり危険性はなさそうな印象だったが、実際には本人の体調によるようだ。

 さらに質問を重ねる。食事の制限について。

 差し入れは感染の危険があるので、基本的に不可。理由は、抗がん剤の治療により血液中の白血球数が極端に減少するからである。医師の言葉を借りれば、「ゼロになる」ということだった。

 その場合、外部から持ち込まれた、普通の人にとってはなんでもない雑菌が、患者に対して重大な影響を及ぼす。また外部から雑菌が持ち込まれなくても、自分自身の体内に住んでいる細菌によって、高熱が引き起こされることもある。

 そのためYが入院しているフロアは、前記したようにフィルターを使った無菌状態の空気が循環し、フロアに入るためには必ず手洗いとマスクをしなければならない。

 さらに雑菌を持ち込みやすい小学生以下の子供や、家族以外の面会も出来ない規則だ。さらにさらに見舞いの草花も一切駄目なのだ。ひじょうに徹底している。

 医師の話は続く。

 「栄養補給は病院食と点滴で行っています。民間療法もいろいろありますが、周囲があれこれ進めても本人にはストレスがたまるだけです。今はともかく体力回復が最優先です」と説明された。

 そのほか、「足の疲労については、現在栄養が病気の細胞にとられてしまっているため、足が栄養不良状態になっています。また抗がん剤投与時の付き添いは、24時間体制で患者の状態をモニターしていますので基本的に必要ありません」

 「病気に対して、周りが必要以上に神経質になると、かえって患者のストレスが増すので注意が必要です」とのことだった。


トップぺージに戻る  第2章 転院と本格的な治療へ 主治医との話し合いの2へ