ひと山越える

 25日(月)、転院8日目。涼しかったせいか思ったよりよく寝られた。Yの体調はもちろんだが、自分の体調も気になる。私が倒れたら誰が息子の世話をするのか、という不安が常に頭の片隅にある。

 夕方、病院へ。病室に入るのに若干ためらいを感じる。万が一病状が重くなっていたらどうしよう、という不安だ。

 近くに主治医がいたので声をかけると、これまでと変わらない元気な返事が返ってきた。「あー、これなら大丈夫だな」と納得して病室に向かう。昨日は緊急時に備えてドアが開けられていたが、今日はいつもどおり閉じられている。昨日のような緊迫した雰囲気も無い。

 部屋に入ると、相変わらずの咳だ。咳止めを飲んだようだが、効いてくるまで時間がかかる。雑談をしていると、薬剤師が来て必要な薬や体調について問診。主治医、栄養士、薬剤師、看護士が代わる代わる様子を見に来てくれる。

 咳止めが効いてきたのか、Yはうつらうつらし始めた。静かに見守っていると、咳が収まり寝いってしまった。熱も下がった。足がむくんでいるため、包帯が巻かれている。

 帰りがけに主治医に状況を聞く。

 「腎臓の数値は改善傾向です。咳は肺からきています。これはリンパ腫の影響です。右胸に少し水がたまっている事がわかりました。減らないようなら注射で抜くこともあるかもしれません」 (結局注射は使わず、自然治癒)

 「全体的に抗がん剤の激しい副作用もなく、体調は改善傾向にあります。ただし薬剤が通常の半量なので、復調には時間がかかります。おしっこも出ているしカルシウム値も下がっています」

 とまだまだ予断は許さないものの、全体としては改善傾向でひと山越えた印象だ。

 6月26日(火)、転院9日目。初めてのCHOP療法が無事終了したことで、仕事に少し意識が向けられるようになった。しかし夕方は毎日のように病院に行くので、いろいろな人に迷惑をかけている。しかし仕事を辞めれば、医療費の支払に困難をきたすことは間違いないので、悩ましい。

 病室へ。Yの様子は、これまでのぐったりとした姿から見違えるように元気なっていた。血液検査結果で、カルシウム値が11まで下がったことが分かった。しかしヘモグロビン数値が悪いため、赤血球が輸血されている。

 輸血というと、ベッドに寝たきりの状態で、大掛かりな機械を設置し安静状態で行うという、前時代的な古いイメージを持っていたが、実際にはCVの管から精製された赤血球を供給するだけで、本人は具合さえ良ければベッド内で動き回ることもできる。

 咳止めが切れる時間帯に来てしまったため、相変わらず若干咳が出ている。体温は36.9度で、わずかに微熱がある。

 昨晩は良く寝られたようだ。足のむくみも少し減った。筋肉には相変わらず力が入らない。主治医からは、「少しでも足を動かせ」という指示が出ている。

 血小板数は133。通常は148〜336の間なのでわずかに少ない。少なくなり過ぎると出血した血がとまりにくくなるので、ちょっとした怪我にも注意が必要になる。

 血中酸素濃度は通常の酸素量97%より多く、99%で良好。この酸素量の測定も、指の先端に洗濯バサミを挟むような器具で、簡単に痛みもなく測定できる。

 女医さんが心音を確認して、これまで聞こえていた雑音がなくなったことを教えてくれた。


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