7月5日(木)、転院18日目。夕方、私の母親とともに病院へ行き、昨日からの発熱についてYとともに状況を聞く。
今日も午後から38.4度に熱が上がっている。しかし病室に入ったときは、解熱剤を飲んだため37.9度に下がっていた。
主治医によると
「LDH:245、ALP:1353(激増)、クレアチニン:1.02、CRP:2.58と、ほとんどの数値が同時に上昇しています。これはリンパ腫細胞が活性化する兆候です」
「従って白血球数が上がってきた段階(このときは2300で、標準の値より三割ほど少なかった)で、すぐに治療に入りたいと考えています」
「治療は計画通りアドリアシン、エンドキサンとブレドニン内服で、明日から始める予定です」ということで、かなり緊急性が高いニュアンスだった。
話をしているうちに、解熱剤が効いてきたのか三七度に熱が下がり、Yの様子も良くなってきた。これで心配性の私の母親も安心するだろう。
しかしこの段階で病気の勢いが増したということは、半量のCHOPでは病気の勢いをほんの数日停める作用しかなかったということになる。
主治医もその事情を考慮して、もう一段強力な化学療法を提案してきたのだろう。「これは厳しい闘いだな」と内心思わざるを得ない状況だった。
翌6日(金)、転院19日目。夕方いつもの時間に病室に入ると、いきなり酸素マスクを着用している。顔が赤っぽく手足に発疹が出ている。熱はなんと39.4度と驚くほど高い。
昨晩も解熱剤の切れ目に熱が出たようだが、今日は薬剤投与後急に発熱した。朝は38度だったが、アドリアシン点滴中に発熱が始まり、急上昇。
さらにエンドキサン投与半量ぐらいで悪寒、若干の呼吸困難が見られ、主治医の判断で投与がいったん中断された。話を聞いているこちらまで悪寒がしてくる。
若干辛そうな表情を見せているYに情況を確認していると、主治医が入室。その間も看護士さんが何回か出入りし、熱、悪寒、悪心等の症状について尋ねている。かなり緊迫した様子だ。
この時点で上記の熱39.4度。血圧は114/48と下がかなり低い。もともと低血圧気味だが、これではさすがに低すぎる。発疹の理由は病気の発現とも考えられるので、赤くなった部分の一部が生検にまわされた。
主治医の話。
「前回CHOPを半量投与しましたが、約10日間でリンパ腫の勢いが増してきました。これはかなり悪性であると判断できます」
「特にLDHの値が上昇しているので、早期に治療を始めた方が良いと判断しました。熱はアレルギーというより病気との闘いで生じています」という絶体絶命的なコメント。再び「これはもしかしたら・・・」という不安にさいなまれる。
4時近くになり、少し落ち着いてきたためエンドキサンの流量を半分にして再開。赤味が少し薄らいだ気がする。
今日はしつこかった咳が出ていない。良い兆候か?心拍数も落ち着き、熱も38.3度まで下がった。足裏、背中を軽くマッサージする。腕の細さに改めてびっくりさせられる。
5時近くになり、かなり落ち着いたが、再び軽い咳が出始めた。熱は38.1度、酸素99%、血圧120/52で、まだ下がかなり低い。しかし普段の調子が戻ってきたようなので退室。帰り際に主治医に呼び止められる。顔つきは深刻だ。
「病気の勢いがかなり強く、CHOP療法でいったん静まりましたが、抑えつけるところまでいきませんでした。急な発熱は臓器不全等の前兆現象かもしれません。病気の細胞がどの臓器を犯すかによって出現する症状も異なります」
「肺で増殖し呼吸困難になれば、気道確保の人工呼吸器につなげざるを得ません。その場合、麻酔で眠らせるので、本人は苦しくないはずですが、コミュニケーションは取れなくなります」
「その状態から生還する可能性もありますが、普通はその状態から病気が進行してしまいます。今は生検の結果を待っていますが、血液全体に浸透する悪性のリンパ腫が考えられます。その場合、結果は厳しいことになるかもしれません」
Yのように、リンパ腫が腫れることなく、いきなり全身症状が現れるケースはかなり珍しいようで、主治医も過去1件しか扱っていないことを教えてくれた。
その結果がどうなったのかは恐ろしくて聞けなかった。いよいよ医師団が、Yの治療はかなり厳しいと判断したようで、患者、家族にとっては打ちのめされる心境だ。