突然退院許可

 12月21日(日)。今日も37.6度の熱である。

 しかもあれほど我慢強かったYの忍耐に限界が来て、さかんに退院したいと言い始めた。

 毎日のように抗生剤、数日おきに輸血、そして発熱、食事はおいしく感じられない。体力はなかなか回復しないし、入院生活も夏以来すでに4ヶ月を越えたとあっては、誰だって嫌になるだろう。

 ましてや再々入院時にはひじょうに元気だったのに、ここにきて抗ガン剤の副作用に痛めつけられ、体力的にも精神的にも、かえって下降してしまったとあっては、とても我慢できるものではない。

 「何が何でも退院する」と言い始めた。普段は明るく、何でも前向きに考えるYだが、一度決心すると妙に強情なところがある。私自身も、「あと少しだから前向きに治療に取り組め」と言いつつも、多少体調が悪くても退院はやむを得ないのかなと思い始めていた。

 主治医もそのような感情を察知したのだろう。突然、「明後日23日に退院しても構いません」と言い出した。

 当初は我々の熱意と、年末年始を自宅で過ごさせる思いやりかなとも感じたが、どうもこの辺りからその後の病状悪化を予測していたようにも思える。

 22日(月)。相変わらず採血結果は芳しくない。皮膚の一部に炎症があるため、シプロキサンという新しい抗生剤が投与されている。赤血球、血小板共に輸血。談話室で主治医の話を聞いた。

 「11月29日に6クール目の治療に入りましたが、白血球がすぐに下がってしまいましたので、数日後に骨髄抑制が強く出るキロサイドを中止しました」

 「一方熱もなかなか下がりません。咳が出ているので、咽頭炎、上気道炎が原因かと思われます。また皮膚からの炎症もあるかもしれません」

 「この間御本人の退院希望がひじょうに強くなっています。そこで明日の午前中まで点滴により抗生物質、炎症抑制剤を処方すると共に、赤血球と血小板の輸血を行い、いったん退院。その後は外来にて輸血を行おうと考えています」

 「もし自宅で咳や痰、発熱、息苦しさ、貧血等の症状が出た場合は、肺炎を併発している可能性がありますから、すぐに連絡してください。また免疫が弱っていますので、風邪の予防等には万全の対策が必要です」

 「現状の検査では、リンパ腫細胞の存在は認められていませんので、寛解に近い状態だと考えられます。このあと2月にPETやCTの検査を行う予定です」

 Yの現状を見ると予断を許さない状態だが、単なる風邪ならば血球の回復により問題は生じないはずだ。

 咳が出るといっても、それほどひどくはない。しかし主治医の言葉を深読みすると、この後病状が悪化する場合があることを予測して、せめて年末年始は家族と共に過ごさせようという配慮があったのかもしれない。

 23日(火)、再々入院131日目。退院の日は熱もほとんどなく、輸血もしたのでだるさもとれ、気分は良さそうだ。

 しかし食欲はまだあまりない。常にまずいといい続けた病院食のせいかもしれないし、抗ガン剤による味覚異常かもしれない。息子と共に病院へ行き、私物の整理を行った。

 入院期間が長いので荷物も多い。息子ががんばって車まで荷物を持って何回も往復してくれる。まだ中学2年だが、自分で判断して行動するようになり、助かっている。

 「もう戻ってこないでね」という看護士さんの言葉に感謝しながら、車でYの実家へ。途中昼食を食べても良かったが、人ごみが心配だったのと、完全に回復したわけではないので、すぐに実家に行くことにした。

 2クール後にハワイへ出かけた時の状態と比べても、明らかに体調は落ちている。退院はしたもののYの表情も冴えない。車の中でも互いに不安を押し殺すように、会話が続かない。今日と24日は実家で休養。


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