第1日目 春に出会った女の子と再会

 ビールを飲みながら、「じゃあ、そろそろあの子と話でもしてみようか」と思ったとき、左手の暗闇からヒョッコリ顔を覗かせた子がいます。体を斜めに傾け、こちらを見つめる視線は、心なしかにこやかです。

 一瞬「誰だ?」と思いましたがすぐに思い出しました。春の旅行でなにかれとなく話しかけてきて、相性が良いなと思った子でした。

 決して美しいとは言えない子ですが、私から見ると可愛らしくて愛嬌があります。(ちなみに年齢は若いと言っても私から見てですから、それ相応です)

 私と視線が合うと手を振ってきます。思わず知り合いに会ったように感じて手を振り返し、日本語で「やあ、まだ頑張っていたんだ」と声に出しましたが、もちろん通じません。

 ただ私が思い出したことがすぐ分かったようで、あっと言う間に横に座り込んできて握手。飲み屋さんに行って馴染みの店で、昔知り合った子と再開したような感じです。

 しかしこの子、英語は片言のみで、日本語はほとんど駄目。意思疎通の方法はほとんど皆無。

 しかし相性が良いと、なんとなく動作や雰囲気で何を言いたいのかは分かります。不思議です。積極的にタイ語と英語の混じった言葉で話しかけてくるのもこの子の特徴です。

 話す内容は「いつ来たか」「いつまでいるか」「ホテルはどこか」「今日はどこにいたか」なんてことですが、タイ語の特徴でしょうか。語尾に「na」という言葉が尽きます。

 「今日来たよ」(Today come to bangkok)と言えば「トゥデイ、ナ」となり、「滞在は5日間」(Five stays)と言えば、「ファイブ、ナ」という感じ。

 いろいろな旅行記を読むと、タイの女の子との会話の記述は、どの人もこの「na」という言葉で書かれているので、一種の常套句なのかなと思い、帰国後ネットで調べてみると「〜だよね」という、日本語で言う確認の意味だと言うことがわかりました。

 そう考えると会話の意味もよく分かりますが、すでになんとなくそういった意味であろうと言うことは、何回も聞く言葉なので検討がついていました。

 しかしビールを飲み、水着美女を見ながら、傍らに相性のよい女の子がいると言う状況は、それだけで何とも言えず癒しの空間です。(音楽がうるさいのが玉にきずですが)

 傍らの子は私が何もしない、ということを春の体験で先刻承知の筈ですが、何もしないと言うことは、危険もないと言うことなのかもしれず、遠慮なく体を寄せて、またまたマッサージの真似事なんぞをしてくれるものですから、さらに幸福感が高まります。

 その内、明日はどうするんだ、と言う話になり、「明日は別の店に行くつもり」と遠慮なく言うと、「分かった。じゃあ明後日来るナ」「待ってるナ」と言うことになりました。

 別の店に行くといっても、別段嫌な顔をするわけでもなく、ある意味ビジネスライクに接してくれるので助かります。

 体験記を読むと、抜き差しならない関係になり、他の店に行くのもその子の目を盗んで、なんてことが自慢半分に書かれていたりしますが、私の場合は一緒に外に出かけると言うことがないので、そういうしがらみもないようです。

 のんびりと再開を祝って、片言の英語で意思疎通を図り、マッサージを受け、適当に体をくっつけて、上記の会話をしてチェック。もちろんチップは渡しています。なんとなく幸せな気持ちになってホテルへ戻りました。


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