最終検査

 10月19日(金)、転院123日目。

 血液検査で、ここ2週間ほど肝機能の数値が高い状態が続いている。今日もGOT58、GPT112、γGTP288とかなり高い数値だ。そのためか肝機能改善のためにグリチロンが処方された。

 それ以外の数値にも、正常値から外れているものが、まだかなりある。しかしコンピューターに入力した数値の経過を追ってくると、全体としては少しずつ正常値に近づいている。

 骨髄検査も行われた。主治医から、「骨髄の異常は、骨髄穿刺の針を抜くときの感触で、ある程度分かります」

 「Yさんの場合、入院直後と今を比べると、今のほうが明らかに良い感触でした」と言われた。言われたときは、「そんなもんか」と思ったが、後日、「骨髄中にリンパ腫細胞は検出されなかった」と伝えられ、主治医の感触が正しかったことが証明された。

 一方残念ながらCT、PET、骨シンチ等のすべての検査で肺に影が出た。ただしそれがリンパ腫細胞の影なのか、その他の炎症やカルシウムの集積なのかは現状では判断できない。

 特定するためには肺内視鏡検査を行うしかないとのことだったが、本当に特定できるかどうかは前にも書いたように確率の問題なので、実施は遠慮することにした。

 骨髄検査のあと、入院後初めて2人で2階の喫茶店に出向いた。移動は病院の車椅子を貸してもらった。

 私自身は学生時代ボランティア活動で障害のある人との交流があり、車椅子の扱いは慣れている。慣れていない人が押すと数センチメートルの段差でも、引っかかった瞬間に乗っている患者さんは前のめりになる。

 それを避けるためには前輪を軽く持ちあげる必要があるが、これもコツがいる。思わぬところで経験が役に立った。

 Yを車椅子に座らせ、しずしずと病室を出る。同室の患者さんから、「行ってらっしゃい」という暖かい声援を受け、エレベーターに向かう。もちろんYも満面の笑みである。

 無菌フロアから、いわゆる雑菌の満ちあふれた空間に出ることは、かなりの勇気が必要かと思っていたが、実際には目に見えないのでそれほど抵抗はなかった。しかし当然ながらマスクと手袋をしっかりつけての出発だ。

 ついに第1目標達成だ。車椅子をゆっくりと押し、喫茶店に入る。これまで飲んだコーヒーの中で一番うまかった。Yもうれしそうだ。顔が輝いて見える。退院後の話も弾む。

 20日(土)。経過が良好と判断され、来週末には退院できると主治医から連絡があり、小躍りして喜んだ。その後は通院となる。

 そのまま問題なければ完治となるわけだが、もともとひじょうに重い病状から出発しているので、そんなに簡単にはいかないだろうとは予想していた。しかし先のことをあれこれ心配してもしょうがない。今は素直に退院が近づいたことを喜ぶべきだ。


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