第3クール開始

 9月9日(火)。再々入院16日目。久しぶりに主治医から状況を聞いた。実はYの健康状態や血液検査結果を見て、本当にこれからも治療を続ける必要があるのかどうか、率直に疑問をぶつけようと思ったからだ。

 悪性リンパ腫に化学療法は有効な手段であるが、一方で抗がん剤による副作用も顕著だ。場合によっては副作用で命を失う場合もあるということを知ってのことである。

 抗がん剤による治療効果と、副作用による死亡というリスクを常に天秤にかけなければならない。

 もちろんそれを判断するのは主治医なのだろうが、本人の病状を親身になって心配するのは家族だ。そして主治医には分からない、患者の体調や気分、考えを察知するのも、常に接している家族なのだ。

 従ってどれほど論理的に正しい治療であっても、治療を継続するかどうかの最終判断は主治医ではなく、本人と家族に委ねられていいはずだ。そのようなことを念頭において話を聞いた。しかし返答は少しばかり落胆する内容だった。

 「いちど始めた治療は、基本的に途中どれほど軽快しても、6クールやらなければ治療効果は上がりません」

 「肺の影は悪化していませんが、依然として存在しています。乳房の影はまだあります。それがリンパ腫かどうかはPET等で調べるしかありませんが、治療の途中でPETを用いても、良い結果が得られません」

 こう言われてしまうと従わざるを得ないような気持ちになる。どうしても、相手はプロでこちらは素人という意識が抜けず、「しょうがないか」と思ってしまう。

 しかし、今この記録を読み返しまとめてみると、当時の医師の言葉にそれほど強い説得力はないようにも思える。

 たとえば6クールやらなければならない根拠について、明確に示しているわけではない。また、ちょうどハワイ旅行で治療が中断したこの時期に、PET検査を行っても良いわけだ。

 ただ当時は、生か死かという昨年の厳しい状況を、この主治医の的確な治療によって克服できたという印象が強かったので、やはり相手はプロだから、素人が治療方針に口を出すべきではない、という意識があり突きつめた話が出来なかったことは間違いない。

 6クール終了後の見通しについても質問した。

 「一連の治療が終了した場合、その後は幹細胞移植という方法が考えられますが、現時点では御本人の腎臓や肺の機能が弱っているため、実施する予定はありません」とのことであった。

 また、「今後新たなリンパ腫細胞がどこに再発するか、まったく不明です。節外病変と言って、脊髄から脳に入る可能性もあるので、場合によっては脳、脊髄液をとらなければならないことも考えられます」

 「発症した場合、脳梗塞のような症状が表れます」(たまたまこの病院で、この時期にこの症状で亡くなった患者さんがいたことから、このようなコメントがあったらしい)

 血液検査結果の推移を見て、「クレアチニンの値が低下しない理由は」という問いに対しては

 「昨年の病気の過程で腎臓の機能が悪くなり、現状では回復が難しくなっています。これ以上悪化しないように水を絶やさないことが必要です」とこれまでと同じことを説明された。もちろんYもそのことを常に意識していて、ペットボトルの水を絶やさないようにしている。


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